2012年10月25日

バーブラ・ストライサンド『リリース・ミー』(12年)

Barbra Streisand:Release Me(12年)

バーブラ・ストライサンドのニュー・アルバムは60年代後半から昨年リリースされたバーグマン夫妻集に至るまでのレコーディング作品の中より厳選した楽曲11曲を収録した未発表音源集。

…と、本題に入る前に最近のバーブラ関連のニュースの賑やかなことったら。

10月8日から始まった「バック・トゥ・ブルックリン」のツアーは大好評のようですし、映画出演が噂される『ジプシー』からの期待度マックスの選曲披露もあれば、そのライブで実現した息子ジェイソンとのデュエット。そしてまさかまさかの義妹ロスリン・カインドとのデュエット実現には目を丸くするばかり。









来月11月には昨年行われたトリビュート・ライブの模様『Musicares Tribute to Barbra Streisand 』がDVD/BDとしてリリースされますし、12月にはセズ・ローガンと共演したコメディー映画「The Guilt Trip」の公開が待機中。年明けにはこれまで度々曲が取り上げられてきた人気番組『glee』にて満を持してのトリビュート・エピソードが(噂段階ながら)計画中と、もう百花繚乱状態。





そんな話題満載なこの時期を狙ってリリースされた本作『リリース・ミー』は過去の未発表音源集というハンデを乗り越え、初登場7位とバーブラにとって32枚目のトップ10入りのアルバムとなる快挙を記録。総合でもシナトラを射程距離に収めた第3位、女性歌手ではダントツの1位で、最近のリリース・ペースを考えればマドンナもマライアもブリトニーもこれだけは彼女の記録を抜くのは難しいかなと思います。(マドンナが20枚…可能性ありか?)

未発表音源集と言えばかつて91年にリリースされ、その貴重過ぎる蔵出し音源と物量の多さに驚かされるとともに狂喜乱舞した4枚組の『ジャスト・フォー・ザ・レコード』がありましたけど、あの集大成音源としてのゴージャス感&重量感をよりコンパクトにまとめ、うまく一枚のアルバムとして構成したのが本作という感じでしょうか。

それではアルバムの収録曲を簡単にご紹介いたします。

1.Being Good Isn't Good Enough 1985
85年『追憶のブロードウェイ』セッション時の未発表曲。バーブラの出世作『ファニーガール』のジュール・スタインが手掛けたミュージカル『ハレルヤ・ベイビー』からの非常に美しくバーブラらしいスケールの大きさも兼ね備えた作品で、ブロードウェイ・アルバムのトップを飾る構想もあったらしいのですが、ご存じのようにアルバムは芸術への愛と情熱ほとばしる「プッティング・イット・トゥギャザー」がその位置をゲット。もしこちらになっていたとしても作品の素晴らしさは揺らがなかったでしょうけど、やはりインパクトという点では「プッティング」で正解だったように思います。感じとしては『バック・トゥ・ブロードウェイ』の「魅惑の宵」に近いですかね?

2.Didn't We 1970
70年に企画されたものの当時のCBSの社長であったクライブ・デイヴィスにダメだしされてお蔵入りとなったアルバム『ザ・シンガー』用に録音されたジミー・ウェッブの作品で、72年『フォーラム劇場のバーブラ』にライブ・バージョンが収録されているのでファンにとっては既にお馴染みとなっている1曲。楽曲としては小品という感じですけど、それを繊細にダイナミックに歌い上げればこれぞバーブラという世界に変身。スタジオ録音らしいより完成度の高い歌唱がこれまた魅力的です。時代遅れと判断された『ザ・シンガー』の代わりに録音されたのが当時の新進シンガーソングライターの曲を集めたロック・テイスト・アルバム『ストーニーエンド』ですね。念為。

3.Willow Weep for Me 1967
67年『シンプリー・ストライサンド』セッション時の未発表作品。本盤の他の収録曲は完成したアルバムに当てはめようとすると、どうにも収まりどころがないなぁという作品が多いのですが、この曲は『シンプリー』に入っていても全然違和感がない感じ。収録曲は10曲と決めていたのでとりあえずオミットしちゃいましたってところだったのかな?

4.Try to Win a Friend 1977
77年『スーパーマン』セッション時の未発表曲。こちらも落ち着いた魅力溢れる好バラードで、癖のないカントリーといった趣は『スーパーマン』よりは『ソングバード』のほうがしっくりくるかもしれませんね。

5.I Think It's Going to Rain Today 1970
70年『ストーニーエンド』セッション時の未発表曲。ランディ・ニューマン作のスタンダード化している名曲で、バーブラの言葉をぽつりぽつりとつぶやく様な抑えた表現が素晴らしく、数あるカバーの中でも今後ベスト・テイクのひとつに数えられる出来じゃないかと思います。発表されていてしかるべき、という感じですが、より現代的なポップ・ロック曲へのチャレンジをを行った『ストーニーエンド』の中にあってはスタンダード指数が高過ぎて、やはり収めどころがなかったように思います。という事でニューマン作のもう1曲でロックっぽさのある「レット・ミー・ゴー」は採用となりこちらは不採用。ピアノは作者であるランディ・ニューマン自身がひいています。

6.With One More Look at You 1977
77年映画『スター誕生』のクライマックスで「私を見つめていて」とのメドレーで披露された追慕のバラードの単独スタジオ・バージョン。切々と歌われるメドレー・バージョンが身に沁みている者にとってはやはり物足りなさを感じてしまいますし、本作で唯一完成に至る前の練習バージョンといったライト感も否めないのですが、それでもこの歌自体の持つ魅力、新鮮な空気感に満ちたバーブラの歌声は素晴らしく、「スタ誕」フリークにとってはたまらない音源になっています。





7.Lost in Wonderland 1968
68年に企画され数曲レコーディングもされたアントニオ・カルロス・ジョビン等のブラジル音楽集からの1曲。音符の上を飛び跳ねるようなバーブラの高音が美しく、リラックスした雰囲気が素敵ながらも高音部でアップダウンする音階が緊張感を生み、それが不思議な魅力になっている1曲。「イパネマの娘」や「コルコバード」等も録音されたそうで、いつか蔵出しされることを祈るばかりです。

8.How Are Things in Glocca Morra?/Heather on the Hill 1988
88年『バック・トゥ・ブロードウェイ』セッション時の未発表曲。「フェニアンの虹」と「ブリガドーン」というクラシック・ミュージカルからの選曲で、南国的な解放感が心地よくも美しい作品。こちらも楽曲としての完成度はすごぶる高いと思うんですが、結果的にシアター・ソングの持つ濃密感とはまた違うテイストに仕上がったためにオミットされたのかなと。

9.Mother and Child 1973
73年に着手しながら企画自体がお蔵入りとなってしまった女性の一生を1枚のアルバムで表現しようとした『ライフ・サイクル・オブ・ア・ウーマン』セッション時に録音された楽曲。ミシェル・ルグラン&バーグマン夫妻という黄金トリオによる作品で、屋根裏部屋で聴くオルゴールの音色…とでもいうような懐古的で滋味深い1曲。1番の歌詞(歌声)と2番の歌詞(歌声)が3番で多重録音により一緒になって一人デュエットになる構成が面白くも素敵です。個人的には本作の中で一番のお気に入り。『ジャスト・フォー・ザ・レコード』に収録された「ビトゥイーン・イエズタデイ・アンド・トゥモロウ」や「キャン・ユー・テル・ザ・モーメント」もこのセッションの作品で、完成していたらこのアルバムは傑作のひとつになっていた予感…完成させてほしかったなぁ。

10.If It's Meant to Be 2011
2011年アラン&マリリン・バーグマン夫妻作詞作品集であった最新アルバム『ホワット・マターズ・モスト』セッションからの最新未発表曲。例えばこの前の曲「マザー・アンド・チャイルド」と比べれば録音時期に40年近い隔たりがあるのですけど、こうして続けて聞いてもほとんど違和感を感じさせないというのが驚き。とはいえじっくりと聞けばその声に刻まれた年輪の深さと芳醇な味わいは隠しようもなく、その年月の流れに何とも言えない感慨を覚えてしまう1曲です。

11.Home 1985
85年『追憶のブロードウェイ』セッション時の未発表曲。言わずと知れたミュージカル『ウィズ』の代表曲で、だいぶ以前から海賊版音源が出回っており、初めて聴かせてもらった時は感動に震えたものでしたけど、正直このバージョンはあんまりよくないかも。一応本盤からのシングルに切るという事で数種類の楽器を追加録音してよりポップなアレンジを施したようですが、これが裏目に出てしまったように思います。You-Tubeにありますが、シンプルな下記バージョンのほうがお薦め。…とは言っても、希望に満ちた内容といいバーブラの歌声といい、ラストを飾るに相応しい楽曲であることに変わりはありません。元気、もらえます。





未発表集=お蔵入り音源=出来がいまひとつだったもの…というイメージがあるかもしれませんけど、本作はハイ・クオリティでありながらもあくまでアルバムのコンセプトや雰囲気に合わずに選から漏れた楽曲集、というのが正しいですかね。

純粋な新作ではないという事もありますし、まだバーブラがピチピチ(smile)としていた頃の若さ溢れる歌声ということもあって、聞き心地はとてもライト。90年代以降の作品のような重さがなく聴き疲れしないし、内容ではなく量の面でちょっと物足りなく思え、しかもバーブラの歌声が素晴らしすぎる時期のものと言う事で繰り返し繰り返し聴きたくなる(聴いてしまっている)作品集でございます。

2枚組ぐらいでこの手のは丁度いいのに…と思ったら、しっかり第二弾の企画もあるらしいです。シナトラやトニー・ベネットばりの新録音によるデュエット・アルバムの企画も進行中というのに何も小分けする事ないのにねぇ。定期的にシリーズ化してリリースするつもりなら大歓迎ですけど…。

70歳にして大車輪な活躍ぶりのバーブラ、あまり頑張りすぎてお疲れが出ないようにしてもらいたいですね。健康第一で、末永く活躍していただきたいですから。

チャートデータ
アルバム
Pop 7位


posted by Suzu at 22:45| Comment(3) | TrackBack(0) | POPS系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんな事書くと不謹慎ですけど、最近の活動ぶりを見ていると逆にボックリいくんじゃないかと心配になってしまいます(苦笑)
更に加えて、監督作もかなり可能性が高そうですから、本気でもう一花咲かせるつもりに見えますね。
ファンとしては嬉しい限りですけど。
「リリース・ミー」はSuzuさんがお書きになっている事に尽きます。
よくぞ出してくれたと思いますね。
まだまだ噂されていた未発表曲も残ってることですから、続編も当然ですね。
この調子でどんどんありったけ出して頂きたいものです。
まあ多分バーブラも、同じ陽の目を見るなら、追悼とかで自分の預り知らないところで出されるのは真っ平だわ、くらい思ってそうですね(笑)
Posted by 詩子♂カンタービレ at 2012年10月26日 00:05
お蔵入りの曲集ってことで、どうしても2の足を踏んでしまって、なかなか手が出ないのですが、どうして、なかなか素晴らしい曲ばかりですね。やっぱりファンとしては買わなくちゃ。って思います。「スタ誕」大好きなんで、このバージョンもいいな。って思います。でも、やっぱりこの中では「I think it’s...」がいい感じだなぁ。って思います。どちらかというと熱唱型のバーブラが抑えて歌う所が印象的です。
Posted by 小さな足 at 2012年10月27日 07:53
詩子♂カンタービレさん、こんにちはです。

そうなんですよねぇ、これだけ盆と正月が一緒に来た状態で話題満載・フル活動状態だと、ファンとしてはいいんです、そんなに頑張らなくて!…と言いたくなってしまいますよね。
何かのスウィッチが入ってしまったのでしょうか?監督作も実現したら楽しみだなぁ。

詩子の仰るように、きっと自分のコントロールが利かなくなってからあれこれ勝手されちゃうのは、絶対バーブラ嫌なんでしょうね。バーブラとはいえ本当に出来が悪くてお蔵入りしたものもあるでしょうから、目の黒いうちに納得のいく形でと考えるのは、すごくよくわかりますです。シリーズ化、期待したいですね。

小さな足さん、こんにちはです。

本文にも書きましたけど、この盤はふつうのお蔵入り音源集とは一緒に出来ませんよね。出すからには納得したものを出す、バーブラの目が黒いうちは、やはりそこは譲れないんだと思います。

バーブラの上手さは、もちろんあの押し出しの強さあってのものなんですが、引きの上手さ、声のコントロールの上手さなんだと思うんですよね。熱唱型の歌手はどうしても細やかな表現が若干弱くなる傾向がありますが、バーブラに限ってはそれはないですもの。「I think」、本当に素晴らしいですね。
Posted by Suzu at 2012年10月27日 13:20
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