2012年08月01日

ドナ・サマー『アナザー・プレイス・アンド・タイム』(89年)

Donna Summer:Another Place and Time(89年)

89年にリリースされたドナ・サマー14枚目のオリジナル・アルバム。

前作の失敗を受けて(…って80年代はこんな事ばかり書いてますけど…)ゲフィン・レコードはドナによりコマーシャルな成功が期待できる作品を要求。ゲフィン側が白羽の矢を立てたのが、当時カイリー・ミノーグを始め、リック・アシュトリーやバナナラマ等でワールドワイドなヒットを量産していた英国のプロデュース・チーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンでした。

ドナはレーベルの指示通りSAWと共に曲作りを開始しアルバムを完成させます。が、またしてもゲフィンはアルバムの発売を拒否。それどころか8年の在籍期間中とうとうレーベルが期待するだけの成果を出せなかったドナに対し、レコード契約を打ち切る決定を下すに至ってしまったのです。
アルバム1枚が何百万枚と売れ、シングル・ヒットも量産されるようなミュージック・ビジネスの更なる大型化が進んでいた時代とはいえ、ドナにとってはそれはあまりにも屈辱的な決定だったと思います。

宙に浮いてしまったリリースでしたが、UKでは権利を持つワーナー・ブラザーズからアルバムが発売される事が決定。まずはファースト・シングルとして「ディス・タイム・アイ・ノウ・イッツ・フォー・リアル」をリリースしますが、UKではこれが78年「ノー・モア・ティアーズ」以来のトップ10ヒットとなり、最終的にトップ3入りする大ヒットを記録。続くセカンド・シングルの「アイ・ドント・ワナ・ゲット・ハート」もトップ10入りし、サード・カットの「ラブズ・アバウト・トゥ・チェンジ・マイ・ハート」も20位にチャートイン。その他にもトップ100に入るシングルが2曲、アルバムもトップ20入りと70年代を彷彿とさせる大成功を収めます。







追ってアメリカでもアトランティック・レコードからのリリースが決定。こちらも「ディス・タイム・アイ・ノウ・イッツ・フォー・リアル」が83年の「情熱物語」以来となるシングルのトップ10ヒットとなり、またその他の国でもヒットを記録。何とも皮肉な事にまたしてもゲフィンは自社での大ヒットを目前のところで逃す結果となってしまった訳です。

元々ドナはヨーロッパのディスコ・ミュージックであるミュンヘン・ディスコでチャンスをつかんだ訳であり、同じくヨーロッパから興ったダンス・ミュージックの最新型であるユーロ・ビートとの融合は期待が大きかったはず。ゲフィンも当然そこを見込んでの人選だったはずですが…何ともうまくいかないものですね。

アルバムは典型的なPWLサウンドを擁したユーロビート・ソング「ラブ・テイクス・オーバー・ユー」「センチメンタル」「ブレイクアウェイ」等を基調に、ドナらしいダイナミズム溢れる「アイ・ドント・ワナ・ゲット・ハート」、大空を舞う鳥のように雄大で軽やかな「ディス・タイム・アイ・ノウ・イッツ・フォー・リアル」、70年代の名曲群を彷彿とさせるスケールの大きな名曲「ラブズ・アバウト・トゥ・チェンジ・マイ・ハート」、日本ではCMソングとしてオンエアされた爽快なダンス・ナンバー「オンリー・ワン」、違う場所と時間の中で出会えたなら…という切ない恋心を歌うアルバム中唯一のスロウ・ナンバー「アナザー・プレイス・アンド・タイム」等のキー曲を要所に配した構成。





ヒットしたシングル3曲の出来が飛びぬけている以外、あまり聴くべき曲がない…とまで言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、やはり単調なリズムの繰り返しがメインとなるユーロビート作品ではなかなかに創造的曲作りを行うのは難しいようで、発売当時それなりにヘビー・ローテーションした割には心に止まる曲が少なく、アルバムを通して聴くとどうにも平凡な印象を受けてしまう作品になってしまったように思います。

ゲフィンが発売を見送ったというのも、正直ちょっとわかるなぁという感じ。

コマーシャルな面では大成功を収めた本作ですから、当然SAWプロデュースによる第二弾のアルバムも企画されたのですが、これはドナの意向によりキャンセルされた模様。次作を、髪を金髪に染めて『ミステイクン・アイデンティティ』=人違い=自分ではないというタイトルにしたのは、このアルバムで商業的な成功を収めたとはいえ納得のいかない作品をリリースしてしまった事への自戒を込めたものだと言われています。
確かに気持ちはわかりますけど、それでも名曲と思える作品が3曲もあるんですから、これは痛し痒しでしたかね。これが最後の大ヒット作になった訳ですし…。

最後になりますが。このインパクトの大きすぎるジャケ。「もうひとつの時間と場所」という事で、京劇風の白塗りメイクにトライしてしまったドナさまなのです。衣装も遠目に見ると唐草模様風に見えちゃいますしね。いったいどの時間と場所に紛れ込んだのやら…もうっ。

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Another Place And Time

1. I Don't Wanna Get Hurt
2. When Love Takes Over You
3. This Time I Know It's For Real
4. The Only One
5. In Another Place And Time
6. Sentimental
7. Whatever Your Heart Desires
8. Breakaway
9. If It Makes You Feel Good
10. Love's About To Change My Heart

チャートデータ
アルバム
Pop 53位/R&B 71位/UK 17位
シングル
「This Time I Know It's For Real」:Pop 7位/UK 3位
「Love's About To Change My Heart」:Pop 85位/UK 20位
「I Don't Wanna Get Hurt」:UK 7位
「When Love Takes Over You」:UK 72位
「Breakaway」:UK 49位



ドナとのセカンド・プロジェクト用に制作された曲の一部はこのロニー・ゴードンのアルバムに収録されたそうです。

posted by Suzu at 22:00| Comment(6) | TrackBack(0) | ドナ・サマー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こうやって日記を拝読いていくと、80年代いまひとつパッとしない印象なのは、ゲフィンとの相性が悪かったせいなのかなという気になってしまいますね(笑)
ゲフィンは考えてみたら、ロックで実績のあるレーベルって感じですもんね。

で、このアルバム、カサブランカ時代のファンにとってはこの辺りのアルバムの中では一番抵抗がないかもしれません。
ただやはり、アルバム全体の統一感はあるけれど、逆に単調にも感じてしまいますね。
彼らのサウンドは、アルバム通して聴くにはちょっと飽きてしまいますもんね(苦笑)
でも軽く聴くには嫌いではないです。
まあ、個人的にこの内容にこのジャケットはどうかなと思います。
ジャケ買いはしなさそう(笑)
Posted by 詩子♂カンタービレ at 2012年08月02日 10:09
詩子♂カンタービレさん、こんにちはです。

確かにこうして振り返ってみると、明らかにゲフィンとは相性が悪かったですよね。期待が多すぎるあまり、結果重視でアーティストの主体性を奪ってしまった気がします。リリースした作品が決して悪いものではなかっただけに、余計ですね。

本当にこのアルバムは聴きやすくて当時もかなりのヘビーローテーションだったのですけど、本文中にもあるように、アルバムの出来としてよかったかと言われるとどうかなーって感じなのですよね。隙間曲のクオリティがもう少し高ければ…なんて思ってしまいます。

ジャケは…間違った東洋炸裂してますね(smile)。
Posted by Suzu at 2012年08月02日 22:17
久々にドナのヒットアルバムを聞いたなぁ。って
当時そう思いながら何度も聴きました。
特に「ディス・タイム」はとっても気合いの入る
1曲で、ここぞって時にはこの曲を聴いて、
頑張ってました。
確かにちょっと単調かもしれませんが、その分
収録曲と録音時間が短い分、そこまで思わずに
当時は聴いていた。って思います。

確かにジャケはインパクトありましたね。
Posted by 小さな足 at 2012年08月05日 08:32
小さな足さん、こんにちはです。

「ディス・タイム〜」は本当にテンションの上がる良い曲ですよねぇ。

今回ドナのアルバムを再度聞き直してみて、印象の変わった(良くなった)アルバム、そうでもないアルバムとあるのですが、この作品は残念ながらそうでもないアルバムでした。それだけ当時よく聞いたって事でもあるのですけどね。

組合せの妙からする期待値が高かったのかもしれませんです。

ジャケは本当に、どうしましょう?(smile)。
Posted by Suzu at 2012年08月05日 20:09
Suzuさんの文章を読みながら当時のことを色々思い出してみましたが、当時はまだダイアナ・ロスを軸に音楽を聞いていたので、ドナはうまくやったなって思いましたね。同じ年にダイアナもレコード会社を新生モータウンに戻してワーキングオーバータイムが大コケでしたから。

マイケル・オマーティアンとドナのコンビが好きだったので、大ヒットしたし、悪くもないけど、今さらドナが歌うべき歌なの?なんて思ってたかもしれません。

ゲッフィンレコードは直前にシェール獲得して再ブレイクさせていたので、ドナに対して興味を大幅に失ったのも今から思えば当然かなと。あと、デヴィッド・ゲッフィンがゲイなのも例の騒動と合わせて考えるといろいろと穿った見方ができますね。
Posted by Alex at 2012年08月12日 14:11
Alexさん、こんにちはです。

「ワーキング・オーバータイム」は、期待が大きかったわりにちょっとイマイチでしたものね。まぁそれでもR&Bではそこそこヒットしましたし、次の「フォース・ビハインド・パワー」は英国で大ヒットでしたから、ダイアナもうまくやったほうじゃないでしょうか。

PWLのサウンドはやはりどうしても軽いので、ドナがやるにはちょっと…って部分確かにあるんですよね。シングルはよかったですけど、アルバムとしてはどうにも食い足りない感じがありましたし。

そうか、この頃シェールがゲフィンでヒット飛ばしてるんですね。シェールってカサブランカからゲフィンへってドナと同じ動きしてるんですよねぇ。
Posted by Suzu at 2012年08月13日 00:16
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