2012年07月20日

ドナ・サマー『キャッツ・ウィズアウト・クロウズ』(84年)

Donna Summer:Cats Without Claws(84年)

83年、アトランティック・シティーで行われたコンサートの終了後、ドナは会場に残っていた500人ぐらいのファンと交流をしていました。その中にエイズに罹った男性ファンがいて、ドナに自分のために祈ってほしいとお願いし、ドナはそれに快く応じたそうです。その行為を見ていた他のファンが「そんな事は偽善に過ぎない」と発言、ドナがそれはどういう意味かと尋ね、そこからそのファンと2,3言葉を交わしました。熱心なクリスチャンとなっていたドナは「神様はこの世界を愛しているから独り子(イエス・キリスト)を遣わした」と言ったそうですが、この発言にそのファンが怒り出し、そこからさらに感情的な言葉の応酬になっていったそうです。その中でドナが「エイズがゲイ・コミュニティに広まったのは無謀な生活をしているからだ」と言った事で、その場にいた他のゲイのファンたちも怒りだしてしまった…。

これが、いわゆるドナの「エイズはゲイに対する天罰」発言の顛末のようです。

この件に関しては、「死後もデマを流布され続ける歌姫ドナ・サマー」というサイトに詳しくまとめられてますので、是非ご一読下さい→http://matome.naver.jp/odai/2133731638499210701?&page=1

本当の真実というのは映像や音声が残っているわけではないので検証のしようがないのですが、どうも感情的になって出た発言が切り取られ象徴的な言葉として流布されたというのが真相のようです。全く違うと言えば違いますけど、トシちゃんの「俺ぐらいビッグになれば…」と冗談めかして言った言葉が切り取られて伝えられたのと似ているように思います。ドナの場合、ボーン・アゲイン・クリスチャンとなっていた下地があり、ゲイ・コミュニティからの乖離が囁かれている中での騒動でしたから、余計にそういう発言をしてもおかしくないと思われ、彼女の弁明には一切耳が傾けられなかった模様ですね。人気に陰りが見え始めたアーティストには往々にして逆風ばかりが吹いたりしますが、まさにその典型的な例かもしれません。未だにこの発言に対する誤解が一部で解けていないというのがまた怖いところですし…。

ゲイ・コミュニティという大きな後ろ盾を失ったドナ。丁度時代も変革期を迎えており、エンターテイメント界の勢力地図も大きく変わろうとしている頃の出来事でした。


そんな「事件」が起こった翌84年に発売されたのが今回ご紹介のアルバム『キャッツ・ウィズアウト・クロウズ』。ドナにとって12枚目のオリジナル。アルバムになります。

前作の成功を受けてプロデュースはマイケル・オマーティアンが続投。丁度ロサンゼスル・オリンピックが開催された年でもあり、日本盤LPの帯には「ドナはいつだって愛の金メダリスト!」のキャッチがついてるのが微笑ましいというか何と言うか(smile)。

アルバムからの第一弾シングルに選ばれたのは80年代前半のオールディーズ・ブームを反映したのかドリフターズのカバー曲である「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」。
ドナにはリチャード・ハリスの「マッカーサー・パーク」やバリー・マニロウの「恋はマジック」等カバー・ヒットを放った実績があり、バラード・ナンバーを華麗なディスコ・ビートに改変するのはお手の物でしたが、こちらも現代的なポップ・ロック風アレンジを施して、ドナらしさ溢れるゴージャスなバージョンに仕上げて聞かせてくれます。PVも良い出来ですよね。





オープニングを飾るのはセカンド・シングルとなったデジタルと生音の融合感が素晴らしいハイパー・ポップス「スーパーナチュラル・ラブ」。続いてブギウギ調のノリの良いメロディが楽しい「イッツ・ノット・ザ・ウェイ」、「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」を挟んでファニーなメロディをレゲエ調の節回しを交えて歌うドナがこれまたファニーな「スザンナ」、不穏で近未来的なサウンド、預言者めいたドナの語りからポップに転調していく構成が面白い「キャッツ・ウイズアウト・クロウズ」でA面終了。
B面はメロディアスなデジタル・アーバン・ポップで離れていく恋人への思いを切なく歌い上げる「オー・ビリー・プリーズ」、うっすらとアラビアンなメロディも絡めるデジタル・グルーブ・ナンバー「アイズ」、泣きのサックスをフューチャーしたバラードでドナの情感溢れる熱唱が胸に迫る「メイビー・イッツ・オーバー」、マイアミ・サウンド・マシーンを彷彿とさせるライトなラテン・ポップ「アイム・フリー」、そして2年連続でのグラミー、ベスト・インスピレーショナル・パフォーマンス賞を受賞する事になるイエスへの祈りと自己の救済をテーマにしたバラード「許して」で美麗に幕となります。







私、前述のようにこのアルバムは『恋の魔法使い』や『情熱物語』等とほぼ同時期に手に入れて聴いていたのですが、当時はその3作に中にあって一番印象の薄いアルバムでございました。サウンドもポップ・ロックとしては平均的でしたし、楽曲も飛びぬけてキャッチーな作品があるわけではなかったので、数回聞いてもういいかなぁという感じだったんですよね。
そんな訳で今回久しぶりにじっくりとこのアルバムに耳を傾けてみたのですが、意外に個々の楽曲に個性があって、全体的に高止まりというかトータルでの完成度はかなり高かったんだなぁと認識を新たにいたしました。聞けば聞くほどに味が出てくる典型的なするめタイプのアルバムだったのですね。味が出る前に食べ止めちゃってたんだなぁ、私(反省)。

そんな『キャッツ・ウィズアウト・クロウズ』でございますが、ファースト・シングルの「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」はポップ21位、R&B20位という成績に終わり、アルバムもポップ40位、R&B24位と米国デビュー以降の最低記録を更新。…売れなかったのですね。ドナ自身前作よりもシンプルなサウンドを目指したと発言していますが、若干手堅過ぎ、でしたでしょうか。また前作のように鋭く社会問題に切り込む等の強いメッセージ性も後退してしまい、アルバムの核となる部分がぼやけたように感じられたのかも知れません。

また先に時代の変革期と書きましたけど、84年はマイケル・ジャクソンの『スリラー』が猛威を揮い、マドンナやシンディ・ローパーが頭角を現し、プリンスが「ビートに抱かれて」を特大ヒットさせる等、次世代のスターたちが大活躍をしていた年。ドナもこの『キャッツ・ウィズアウト・クロウズ』でヒットを逃しましたけど、同じく70年代から活躍してきたポップ・クイーンであるダイアナ・ロスやオリビア・ニュートン・ジョンも、翌85年リリースの『イートゥン・アライブ』と『麗しの瞳』で大コケしてしまいますから、新たな時代の波にはやはり勝てなかったのかなとも思います。

様々なトラブルに巻き込まれ、とうとうヒットのミューズからも見放されてしまったドナ。次のアルバムがリリースされるまでに3年のインターバルが必要となってしまいました。


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Cats Without Claws

A-1 Supernatural Love
A-2 It's Not The Way
A-3 There Goes My Baby
A-4 Suzanna
A-5 Cats Without Claws

B-1 Oh Billy please
B-2 Eyes
B-3 Maybe its over
B-4 I'm Free
B-5 Forgive Me

チャートデータ
アルバム
Pop 40位/R&B 24位
シングル
「There Goes My Baby」:Pop 21位/R&B 20位
「Supernatural Love」:Pop 75位/R&B 51位



マイケル・オマーティアンの代表作を2つ。
posted by Suzu at 20:45| Comment(6) | TrackBack(0) | ドナ・サマー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
リアルで聴いていたにも関わらず、ドナのそうした
発言について、全く知りませんでした。それとも
僕自身がゲイなんで、敢えて知ろうとしてなかった
かもしれません。

大ヒットした「情熱物語」の2匹目のどじょうを
狙ったようなこの作品。やっぱり2匹目は上手く
釣れなかったようで、私自身も聴いていて、
印象が薄いなぁ。とは思いました。

マイケル・オマーティアンのあまりにもツボを
得たポップ感覚も、冒険心が無くて、ちょっと
寂しかったかもしれません。

でも、紹介されてる彼のソロアルバム。私も
LPで持っていますが、地味ながらなかなか
良い出来に仕上がってますよね。

と言っても長らく聴いてませんが。。。
Posted by 小さな足 at 2012年07月20日 21:52
これ、ジャケットも何かかわいいな〜と思って、印象に残ってるんですよね。
これもレンタルで済ませてしまってたので、Suzu さんと同じく「なるほどね〜」って感じで、可もなく不可もなくという印象でした。
今ちゃんと聴いたら、確かに印象は違うかもしれませんね。
割とそういう感じであまり聴き込まないままのアルバムって、ドナに限らずあるので、聴き直してみるべきかも。
自分の年齢も違っているので、ハマるものが結構ありそうな気がします。

天罰発言、なるほどそういう流れだったのですね。
まあ唐突にそういう発言をしたとはアタシも思いませんでしたし、真意は違うところにあって、それでも伝えられている事と近い事は言ったんだろうな、と想像してました。
この流れでいえば、ドナの言った事は間違ってませんね。
確かにゲイコミュニティは、ちょっとねぇ、なとこありますもん。
何せこちらも向こうも男ですから、魚心あれば水心的にそういう関係になりやすいですからね(笑)
ただ、ドナがちょっとだけ表現の仕方を間違えたんですね。
向こうで神様を出されると、日本で考えている以上にきつい言葉になるでしょうから。
Posted by 詩子♂カンタービレ at 2012年07月20日 22:22
こんばんは。
このアルバムがリアルタイムで最初に買ったアルバム。かなり思い入れがあります。
乾いた音でありながらかなり骨太なサウンドですね。
ファーストカットは日本でCMソングになって映像もかっこ良かったので印象に残ってます。
大物アーティストが毎年毎年アルバムをリリースしていたいい時代でしたねー。
Posted by Alex at 2012年07月20日 22:35
小さな足さん、こんにちはです。

当時は今のように何でも情報が伝わってくる時代じゃなかったですから、お話がお話ですし日本のメディアでは大きく扱われなかったのかもしれませんね。ただ後付のお話としては有名で、ドナの凋落とこのお話とは切り離せない関係としてよく語られていました。それでも詳しい真相が語られるようになったのはつい最近ですね。自分も正直曖昧にしか理解してませんでしたし…。

当時の流れとしては、やはり新鮮味が足らなかったんじゃないかと思いますよね。他にも比較対象がたくさんありましたし、当時は悪く言うと凡庸に感じてしまったというのが正直なところです。

マイケルさんのソロ作品、紹介したもののまだ聞いた事がなくて。今度トライしてみようと思います。
Posted by Suzu at 2012年07月21日 11:51
詩子♂カンタービレさん、こんにちはです。

本当の聴き始めの頃はそうでもありませんでしたけど、調子に乗ってくると次から次へって感じで、一つのアルバムに耳を傾ける時間がどんどん少なくなっていったのは事実なんですよね。一度聞いてピンと来なかったからそれ以来聞いてないなんてアルバムが家にどれだけあることか(smile)。今は出来るだけ聞き込みたいと思ってますが、そうすると未開封品が山のように…頭が痛いところです。
若いころ反応しなくても、今ならって作品は多数ある気かしますよね。老後そんな風に楽しめたらなんて、考えてますが(smile)。

ドナの発言、売り言葉に買い言葉ってところもあったのでしょうね。言ってない訳でははないから真意は違ったとしても余計弁明が届かなかったようにも思いますし。またそういう事を煽りたい人たちが故意に火消をせず広めたのかなという気もするんです。影響力のある人は、本当に発言には気をつけなきゃダメですよね。ドナにとっては身から出たこととはいえ本当に不幸な出来後でした。
Posted by Suzu at 2012年07月21日 12:26
Alexさん、こんにちはです。

私たちのリアルタイムだとだいたいこれとかになりますよね。私は手を広げるのが少し遅かったので、ドナのリアルタイムはこの次のアルバムになりましたけど。

1曲目のビート感とか、けっこうずっしりくるんですよね。よく聞くと味があったり凝った作りだったりする曲ばかりですし。

Alexさんが前に仰ってましたけど、80年代中期からどんどんミュージック・ビジネスが大型化してしまって、前のような制作形態では成り立たなくなってしまったのでしょうね。今毎年出すと「攻めてる」とか言われるし(smile)。本当に幸せな時代でした。
Posted by Suzu at 2012年07月21日 12:42
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