2012年07月13日

ドナ・サマー『情熱物語』(83年)

Donna Summer:She Works Hard for the Money(83年)

ドナ・サマー、83年リリースの11枚目のオリジナル・アルバムです。

80年代に入っていまひとつ波に乗り切れない活動が続いたドナ。ゲフィンが用意したプロデューサーであるクインシー・ジョーンズとのプロジェクトも大きな成果を残せませんでしたが、このレコーディングにストリングス・アレンジとして参加していたマイケル・オマーティアンとドナは次のアルバム製作に取り掛かります。マイケルは70年代前半からミュージシャン兼プロデューサーとして活躍しており、80年のクリストファー・クロスの大ヒット・アルバム『南から来た男』でグラミー賞も受賞、ポップ・ロック系の手堅いサウンド作りで定評のある人物でした。

前作のうっぷんを吹き飛ばすようにドナは全曲でソングライトに参加、マイケルや夫ブルース・スーダノの助力を得てアルバムは完成します。が、またしてもゲフィンはこのアルバムの発売を拒否してしまうのです。度重なる期待外れの成績にゲフィン側のハードルは相当に高いものになっていたのでしょう。鉄壁の布陣で製作したクインシー作品もダメだった訳ですから、首脳陣が次の作品へ容易にGOサインが出せなかったというのも、何となくわかる気はいたします。

丁度その頃、80年から調停中だったドナがカサブランカ・レコードを相手に起こしていた契約解除の起訴についての判決が下されます。それは契約として後1枚作る予定だったアルバムをカサブランカからリリースしなければならないというものでした。話し合いの末、ゲフィンはマイケル・オマーティアンと録音したこの音源を提供することに同意。ゲフィンからすれば自社で発売する予定のないお蔵入り音源だからどうぞお好きにという感じだったのかもしれませんが、何とも皮肉なことにこれが80年代ドナ・サマーの最大のヒット・レコードになってしまうのです。

元々この題名だったのか、それともカサブランカ(実際発売されたのは当時カサブランカを吸収していたポリグラム・レーベル傘下のマーキュリー・レコード)に売られた時点で作り変えたのかはわかりませんが、そのタイトルが「She Works Hard For The Money」=「彼女はお金のために懸命に働く」だったのは、何とも出来過ぎですよね。

邦題は、(多分担当者が寝ずに考えたのでしょう)「情熱物語」と命名されたこの曲、ドナのポップ・ロック路線の完成形とも言えるタイトでキャッチーな楽曲、社会の底辺で働く女性にスポットを当てた喚起力のある歌詞、それをわかりやすく表現して更に女性の解放を訴える秀逸なPVも功を奏して発売と共に大ヒット。ポップでは3位、R&B部門では「バッド・ガールズ」以来2曲目となる1位を獲得する大成功を収め、グラミーの最優秀女性ポップ歌手部門にもノミネートされました。





アルバムはその「情熱物語」をオープニングに、ホームレス等の貧困問題を取り上げた「ストップ・ルック・アンド・リッスン」、イエス・キリストをテーマに84年のグラミー・ベスト・インスピレーショナル・パフォーマンス賞を受賞する「恋に裏切り(He's a Rebel)」、女性の人権問題について歌った「ウーマン」、子供の失踪事件を扱った「ピープル・ピープル」等、当時の世相を反映した社会問題を多く取り上げ、そこに英国のティーンによるレゲエ・バンド、ミュージカル・ユースをフューチャーしたトロピカルな「アンコンディショナル・ラブ」、東京の帝国ホテルを舞台に繰り広げられるエキゾチックなロマン・ミステリー(smile)「トキオ」、ゴスペル歌手マシュー・ウォードをフューチャーした爽やかで力強いデュエット・ナンバー「愛を心に」、スピリチュアルな雰囲気も漂わせる「恋の確信」等のラブ・ソングを配した構成になっています。







このアルバムは批評家筋からの評価も高く、一般的にも好評を持って迎えられましたが、私個人としては前作『恋の魔法使い』と同時並列的に聴いてしまったので、やたら完成度の高かったクインシー・プロの作品との比較で、タイトル曲が飛びぬけている以外はあまり強くアピールしてくる部分が正直なかったんですよね。今回改めて内容を吟味する機会を得て、そのメッセージ性や特に後半の楽曲の味わい深さ加減等、ちょっと印象を改めている次第です。

ドナはこのアルバムのリリース後、以前ご紹介した「ホット・サマー・ナイト」と題されたコンサート・ツアーを行います。そこでドナは彼女のキャリアに致命的な疵をつけてしまう「エイズはゲイへの天罰」発言をめぐる騒動に巻き込まれてしまうのですが…その顛末は次回に。




フランク・シナトラの「L.A. Is My Lady」のPV。クインシー・ジョーンズ・プロデュースのこの曲、クインシー人脈の豪華スターに混じってウェイトレス姿のドナが登場!


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She Works Hard for the Money

A-1 She Works Hard For The Money
A-2 Stop, Look And Listen
A-3 He's A Rebel
A-4 Woman

B-1 Unconditional Love
B-2 Love Has A Mind Of It's Own
B-3 Tokyo
B-4 People, People
B-5 I Do Believe (I Fell In Love)

チャートデータ
アルバム
Pop 9位/R&B 5位
シングル
「She Works Hard For The Money」:Pop 3位/R&B 1位
「Unconditional Love」:Pop 43位/R&B 9位
「Love Has A Mind Of It's Own」:Pop 70位/R&B 35位



ドナの5曲入りお手軽PV集。「情熱物語」と「アンコンディショナル・ラブ」が入ってます。
posted by Suzu at 21:15| Comment(4) | TrackBack(0) | ドナ・サマー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
俗で申し訳ないですけど(笑)、このアルバムは好きでした。

久しぶりに楽しいドナを聴けた、という気がしましたね。

タイトル曲は、やはりウェイトレスの格好でグラミーのパフォーマンスしてましたし、イントロ部分は河合奈保子ちゃんの曲でリスペクト使用(笑)されてましたね。

ただ前2作があまり売れなくて、ドナがウェイトレスにまで身を落としてしまったような錯覚にも捕らわれましたが(爆)

そして流れ的にあの黒歴史に話が及ぶのですね(^o^;)
Posted by 詩子♂カンタービレ at 2012年07月14日 00:06
詩子♂カンタービレさん、こんにちはです。

やっぱりリアルタイムで聞いたのと、後追いで聞いたのでは感想に違いって出てくる気がしますよね。
「恋の魔法使い」「情熱物語」「キャッツ・ウィズアウト・クロウズ」なんかはほとんどまとめ聞きなもので、じっくり味わい尽くしたかというとそうでもなかったんです。「恋の魔法使い」はピン!と来てしまったのでその後の愛聴盤でしたけど、後の2作は滅多に聞くことがなく(smile)。

今回じっくりと繰り返し聞いてみて、なかなか良いアルバムだったんだなぁなんて、宗旨変えした感じです。

河合さんのあの曲も大好きです!最近こういうリスペクト系のパクリがなくてつまんないですねー。

次回黒歴史、いかせて頂きます。
Posted by Suzu at 2012年07月14日 19:45
リアルタイムで聴いて来た私としては、なかなか
大ヒットに恵まれなかったドナが、やっとこの
アルバムで戻って来たなぁ。って気がしました。
クィンシーの凝ったブラックなサウンドもいい
んですが、こうした、とってもポップなサウンド
好きなんですよ。ツボを抑えたって感じ。

で、タイトル曲はどんなに一生懸命アルバムを
作っても売れない、ドナの心情が吐露されている
ようで、そう言う意味でも興味深い1曲です。

が、この次のアルバム「キャッツ・・・・」は
同じラインなんで、ちょっと彼女のサウンドに
飽きてきたかなぁ。って感じでした。
Posted by 小さな足 at 2012年07月15日 08:23
小さな足さん、こんにちはです。

詩子さんの仰った事でも感じましたが、やはりリアルタイムだとこのアルバムの「楽しさ」や「明かるさ」というのが当時は歓迎されたのですね。

そしてウェイトレス姿のドナに対する皆様の様々な思い。このあたりの感覚はリアルタイムならではで羨ましなぁと思いますです。

しかし契約問題のこじれがなかったらこのアルバムもお蔵入りの憂き目にあっていたかと思うと凄いですよね。タイトルも事前に出来ていたらな本当に皮肉すぎますし。面白いものですね。
Posted by Suzu at 2012年07月16日 10:56
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