82年にリリースされたドナ・サマー10枚目のオリジナル・アルバムです。
80年にゲフィン・レコードに移籍したドナでしたが、第一弾となる『ワンダラー』が微妙な成績に終わり、続いて製作した『アイム・ア・レインボウ』もレーベル側の厳しい判断でお蔵入りとなってしまいました。長年ドナとコンビを組んできたジョルジョ・モロダーとピート・ベロッティはここでドナのプロデュースからの撤退を余儀なくされ、変わりにゲフィンが用意したプロデューサーがあのクインシー・ジョーンズでした。
当時のクインシーと言えばマイケル・ジャクソンの『オフ・ザ・ウォール』や自身のアルバム『愛のコリーダ』をヒットさせて大御所にして旬のプロデューサーでもあるという飛ぶ鳥を落とす勢いの真っ只中。
そんなクインシーにプロデュースを依頼して承諾させたゲフィン側の意気込みというのも相当のものがあったろうと思います。またその仕事を受けたクインシーもこれが特別な仕事だという認識をもっていたのでしょう、マイケルのアルバム以上に豪華な布陣を導入してアルバムを制作、高品質のブラコン・サウンドでドナの新たな世界を構築することに成功いたしました。レーベルもこれなら間違いなし!と太鼓判を押したんじゃないかと思うんですが…結果は残念ながらアルバム・シングルとも前作を下回る成績しか残せず、本作もかつての勢いを取り戻す起爆剤とはなりませんでした。
人気稼業の場合一度離れてしまったファンの心を取り戻すのは容易ではありませんし、またそういう流れの中にある時は何をしても上手くいかないというのは往々にしてあること。80年代最初のステップを踏み外してしまったというのはやはりドナにとって大きかったのかなと思います。また常にバーサイタルな才能を示しながらもやはりドナに求められていたのはディスコ/ダンス・クイーンとしての側面であり、新たなブラック・コンテンポラリー路線というのは思いのほか高いハードルであったのかもしれません。
まぁそんな訳で大きな成功には至らなかった本作なので、世間的にもほとんどこのアルバムに対する評価というのは聞こえてこないのですが、個人的には昔からこのアルバムは大好きで、ドナの代表作のひとつだと思っております。
軽快なリズムとホイッスルの音が高揚感を煽るブラコン・ファンク「恋の魔法使い」、ジェームズ・イングラムをフューチャーしたアーバンなメロディの「ミステリー・オブ・ラブ」、情念薫るミディアム・バラードで後にハートもカバーした「ウーマン・イン・ミー」、オリンピックのテーマ曲にしたらはまりそうな総大なワールド・ミュージック・テイストの「ステイト・オブ・インディペンデンス」、アメリカン・ドリームを歌った米国賛歌「リヴィング・イン・アメリカ」、ブルース・スプリングスティーン製作で一時期はデュエットにする案もあったという暴走ロックン・ロール「プロテクション」、ダイナミックなドナの雄叫びから厚みのあるホーンをフューチャーしてスタイリッシュに展開していく「ハーツ・ジャスト・ア・リトル」、おどろおどろしいオープニング(smile)のマイナーなミディアム・クルーヴ・ナンバー「愛をかなえて」、そして摩天楼に沈んでいく夕日を眺めているかのように美しくジャージーなスタンダード・ナンバーの「ラッシュ・ライフ」(ストリングス・アレンジは名匠ジョニー・マンデル!)という全9曲。
クインシー・ジョーンズのプロダクションに共通して言える事ですが、30年経過した今でもほとんどその音作りは古びることがなく、クインシーを始めロッド・テンパートン、デビッド・フォスター、マイケル&ダニー・センベロ、スティーブ・ルカサー、リチャート・ペイジ、ヴァンゲリス等のヒット・メイカー達が提供した楽曲もそれぞれに完成度の高い仕上がりになっています。
「ステイト・オブ・インディペンデンス」はバック・コーラスにマイケル・ジャクソンを始め、ライオネル・リッチー、スティービー・ワンダー、ディオンヌ・ワーウィック、ケニー・ロギンス、ブレンダ・ラッセル、クリストファー・クロス、マイケル・マクドナルド等錚々たるメンバーが参加しており、クインシーにとってこの時の経験が後の「ウィ・アー・ザ・ワールド」に活かされたと言われています。
大人数でのコーラス参加でそれぞれの声が識別出来るわけでもなく、正直クレジットで名前を見ても当時は実感が湧かなかったのですが、本当に最近のYou-Tubeは凄いもので、その時のレコーディング風景というのが現在はアップされて見る事が出来ます。これを見ると、改めて凄かったんだ!って思っちゃいますね(smile)。
ただしこの作品、曲も魅力的だしその雄大なスケール感も素晴らしいのですが、シングル・ヒットするには若干不向きなタイプの楽曲。また第一弾シングルとなった「恋の魔法使い」も、サビがコーラス主体であり、ドナの出番は後半になるほど少なく(ほとんど合いの手のみに)なるためどこか聴いていて物足りない印象があるんですよね。構成も面白いしトータルでの完成度は非常に高いのですけど、「ドナ・サマー」のシングルとしては若干アピールし難い楽曲だった事が、大きな成功につながらなかった原因かもしれません。
またドナは本作について「時々私はクインシー・ジョーンズのアルバムで歌っているように感じた」と述べているのですが、ドナとクインシーの間で「クリエイティビティ」=「創作権」に関する衝突というのが度々起こったらしいのです。
それまで楽曲のソングライトを中心にアルバムの制作に深く関わってきたドナと、プロデューサーとして当然のようにアルバム製作に対して主導権を握ろうとするクインシー。従来は気心のしれたメンバーと自由に意見交換しながらアルバムを作り上げていた(想像です)ドナにとっては、かなり窮屈なレコーディングとなってしまったようです。またレコーディングの時に丁度ドナは第三子を妊娠中であり、体調が万全でなかった事も一因となっているのかもしれません。
両者の間にはしばらく遺恨が残ったようで、クインシー人脈が中心となった「ウィ・アー・ザ・ワールド」にドナが参加しなかったのも、この辺りが影響してるのかなと邪知してしまいますね。
質の高いサウンドに最高のヴォーカル、時代とは上手くリンク出来ませんでしたけど、80年代のブラック・コンテンポラリーを代表する傑作だと思いますので、是非リイシューされた暁にはお聞きになってみていただきたいと思います。
本当にこれが売れなかったのは…残念。
「Sometimes Like Butterflies」→「恋の魔法使い」のB面に収録されたアルバム未収録曲です。ダスティー・スプリングフィールドのカバーもあり。
Donna Summer
A-1 Love Is In Control(Finger On THe Trigger)
A-2 Mystery Of Love
A-3 The Woman In Me
A-4 State Of Independence
B-1 Livin' In America
B-2 Protection
B-3 (If it)Hurts just A Little
B-4 Love Is Just A Breath Away
B-5 Lush Life
チャートデータ
アルバム
Pop 20位/R&B 6位
シングル
「Love Is In Control」:Pop 10位/R&B 4位
「State Of Independence」:Pop 41位/R&B 31位
「The Woman In Me」:Pop 33位/R&B 30位
ダスティー「Sometimes Like Butterflies」収録のレア曲集。


まあ不満を言わせてもらうなら、ドナが感じた通りかもしれませんが、ドナの影がちょっと薄く感じでしまうところでしょうか。
特にクィンシー渾身の曲であればあるほど、そう感じてしまいますね。
ドナの曲というより、あ〜、クィンシーの曲ね、という印象です。
また、そのクィンシーの作品だとしても、やはりマイケルのものと比較してしまうところがあるのは、ドナにとっては気の毒かもしれません。
詩子さんの仰ってる事が、この作品の人気がない原因であり、イマイチ評価も聞こえてこない要因なのかもしれませんね。
ドナ!とかクインシー!とか置いておくと、もの凄く質の高いブラコン・アルバムなのに(smile)、何だかもったいない気がします。
どーぞ聞いてみて下さい…と言っても気軽には手に入らなくなってるし、本当にもったいないです。
溢れたアルバムだったなぁ。って気がします。
確かに当時クィンシーは絶大なる人気があり
ましたし、僕も彼のサウンドは好きでよく聴いて
いて、このアルバムも何度も聴いてました。
が、イマイチ、ドナと相性が良く無かったかな?
なんて思いました。だからこそ、次のアルバムで
起死回生が図れたのかなぁ。って思いました。
見解は分かれるところですよね(smile)。
確かにニューウェーブ的なものを導入したり、「ワンダラー」のほうが色々新たなトライをしてる感じはありますね。そういう意味では「恋の魔法使い」はクインシーのプロダクションに乗っかっただけとも言えますし。
ここでの鬱積というのが次作のバネになったといのはあるかもしれませんね。サウンドというよりも歌詞の面で新たな事にチャレンジしましたし。ドナはそういう開拓精神のある人だったんですよね、きっと。
今、アルバムを聴いてググったらここに来ました。
本アルバムは大好きです。
今までのように売れない要因にMTVがあると思います。
時代はMTV、一部を除き黒人歌手は放送すらされなかった。
ヒットはMTVからと言う時代。
アースもドナも同じ運命にあったと。