2012年08月05日

ドナ・サマー『ミステイクン・アイデンティティー』(91年)

Donna Summer:Mistaken Identity(91年)

91年にリリースされたドナ・サマー15枚目のオリジナル・アルバム。

89年、人気プロデュース・チーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンを迎えた『アナザー・プレイス・アンド・タイム』が主にヨーロッパを中心に大ヒット。SAWの作りだす軽やかなユーロビートとドナ固有のダイナミズムが融合した名曲が数曲生まれましたが、アルバム全体としては若干不満の残る出来であったように思います。

ヒットしたという事でこの組み合わせによる第二弾も企画されたそうですが、ドナはSAWと再び組む事をやめ、変わりに指名したのがビリー・オーシャンやジェームズ・イングラムのアルバムを手掛けていたアーバン・ポップス系のプロデューサー、キース・ダイアモンドでした。

前作の白塗りジャケもかなりのインパクトでしたけど、本作を初めて手にとった時もかなりショッキングでございました。…金髪って?しかも表ジャケはドナの顔が上半分見切れているし、更にタイトルは『ミステイクン・アイデンティティー』=人違い、誤認、直訳しても自我を見誤ると言った不穏な響き。エラいイメージ・チェンジだなぁと当時思いましたです。
後で知った事ですが、やはり前作『アナザー・プレイス・アンド・タイム』が商業的に大成功したのに反し、ドナとしては正直意に添わない部分、納得出来ない部分があったようで、例え成功するとしても、自分の信念を曲げるような事をしてはいけないという自戒が、このタイトルとアートワークに込められたと言われています。

SAWの作品も(後発とはいえ)世界的に流行していたユーロビートという新しいムーブメントを取り入れたものでしたが、ドナは本作にてさらにアグレッシブなチャレンジを、しかもかなり貪欲に行っています。

アルバムのオープニングを飾っている「ゲット・エスニック」や「ボディー・トーク」は、何と当時猛威をふるっていたニュー・ジャック・スウィング、アルバムからのファースト・シングルに選ばれた「ホエン・ラブズ・クライ」やミステリアスな雰囲気の「クライ・オブ・ア・ウェイキング・ハート」はグランド・ビート、英国でシングル化した「ワーク・ザット・マジック」や「ホワット・イズ・イット・ユー・ウォント」はハウス・ミュージック。これだけ一度に当時の流行音楽を取り入れたアルバムって、他にあったでしょうか?
しかもこういう最新モードにベテランが手を出すとどうしても私がんばってます的な感じが出てしまうものですが、本当に凄い事にドナの場合は完ぺきに自分の物として披露。その消化ぶりはまさに「人違い」レベル(?)の素晴らしさです。





アルバムはそうした流行のブラック・ミュージックを基本に、たおやかなミディアム「ヘブン・ジャスト・ア・ウィズパー・アウェイ」、美しくも力強く歌い上げるバラード「フレンズ・アンノウン」、ゴスペル的な要素の強い、というかゴスペルな「レット・ゼア・ビー・ピース」等、ヴォーカリストとしてのドナの魅力が存分に味わえる楽曲も収録。また基本はNJSながらジャージーなテイストを加えて伝説のダンサーをトリビュートする「フレッド・アステア」、洒落たエンディングを用意した「ホワット・イズ・イット・ユー・ウォント」等の味付け具合には余裕すら感じさせてくれます。「ホエン・ラブズ・クライ」は久しぶりに全編をファルセットで歌っており、これがクールなグランド・ビートと絶妙なマッチングをみせた要因のひとつ。
ウィスパー・ヴォイスから野太いシャウトまで、その変幻自在さ、フレキシブルさはやっぱりドナの魅力ですよね。ドナのヴァーサイタルな才能を改めて示した好盤でございました。





…が、世間的なリアクションは米国でシングル「ホエン・ラブズ・クライ」がR&Bチャートで18位を記録した程度で、ポップ・チャートでは77位止まり。アルバムに至ってはトップ200入りも逃すという惨敗具合。前作が大成功した英国では独自にダンス・ポップ色の強いハウス・ナンバー「ワーク・ザット・マジック」をシングル化しますが、こちらもトップ100の下位どまりで終わってしまいました。

かくいう私も、発売当時購入したもののほとんどスルーに近いぐらい本作は聞きませんでした。

何故かと言うと、確かにこうして改めてアルバムを俯瞰してみるとそのチャレンジ精神に畏怖を覚えるくらいなのですが、あの当時は巷にこういうサウンドが溢れかえっていたし、わざわざドナ・サマーでこの手の音楽を聴きたいという感じにならなかったように思います。あぁ、ドナもNJSなんかやっちゃうんだ、ぐらいだったでしょうか。当時は全くと言っていいほどピンとこないアルバムでしたが、今回新譜気分で本作に接することが出来、その素晴らしさを再確認させていただいた次第です。

こちらはさすがに手に入れやすい作品ですので、まだという方がいらっしゃったら是非お試し下さいませ。あれから20年、最新だったNJSやグランド・ビートも既に懐かしいレベルになっていますので、また違った感覚でお聞きいただけるのではないかと思います(…私のように)。

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Mistaken Identity

1. Get Ethnic
2. Body Talk
3. Work That Magic
4. When Love Cries
5. Heaven's Just a Whisper Away
6. Cry of a Waking Heart
7. Friends Unknown
8. Fred Astaire
9. Say a Little Prayer
10. Mistaken Identity
11. What Is It You Want
12. Let There Be Peace

チャートデータ
アルバム
R&B 97位
シングル
「When Love Cries」:Pop 77位/R&B 18位
「Work That Magic」:UK 74位



キース・ダイアモンドのお仕事。

posted by Suzu at 17:45| Comment(5) | TrackBack(0) | ドナ・サマー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月01日

ドナ・サマー『アナザー・プレイス・アンド・タイム』(89年)

Donna Summer:Another Place and Time(89年)

89年にリリースされたドナ・サマー14枚目のオリジナル・アルバム。

前作の失敗を受けて(…って80年代はこんな事ばかり書いてますけど…)ゲフィン・レコードはドナによりコマーシャルな成功が期待できる作品を要求。ゲフィン側が白羽の矢を立てたのが、当時カイリー・ミノーグを始め、リック・アシュトリーやバナナラマ等でワールドワイドなヒットを量産していた英国のプロデュース・チーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンでした。

ドナはレーベルの指示通りSAWと共に曲作りを開始しアルバムを完成させます。が、またしてもゲフィンはアルバムの発売を拒否。それどころか8年の在籍期間中とうとうレーベルが期待するだけの成果を出せなかったドナに対し、レコード契約を打ち切る決定を下すに至ってしまったのです。
アルバム1枚が何百万枚と売れ、シングル・ヒットも量産されるようなミュージック・ビジネスの更なる大型化が進んでいた時代とはいえ、ドナにとってはそれはあまりにも屈辱的な決定だったと思います。

宙に浮いてしまったリリースでしたが、UKでは権利を持つワーナー・ブラザーズからアルバムが発売される事が決定。まずはファースト・シングルとして「ディス・タイム・アイ・ノウ・イッツ・フォー・リアル」をリリースしますが、UKではこれが78年「ノー・モア・ティアーズ」以来のトップ10ヒットとなり、最終的にトップ3入りする大ヒットを記録。続くセカンド・シングルの「アイ・ドント・ワナ・ゲット・ハート」もトップ10入りし、サード・カットの「ラブズ・アバウト・トゥ・チェンジ・マイ・ハート」も20位にチャートイン。その他にもトップ100に入るシングルが2曲、アルバムもトップ20入りと70年代を彷彿とさせる大成功を収めます。







追ってアメリカでもアトランティック・レコードからのリリースが決定。こちらも「ディス・タイム・アイ・ノウ・イッツ・フォー・リアル」が83年の「情熱物語」以来となるシングルのトップ10ヒットとなり、またその他の国でもヒットを記録。何とも皮肉な事にまたしてもゲフィンは自社での大ヒットを目前のところで逃す結果となってしまった訳です。

元々ドナはヨーロッパのディスコ・ミュージックであるミュンヘン・ディスコでチャンスをつかんだ訳であり、同じくヨーロッパから興ったダンス・ミュージックの最新型であるユーロ・ビートとの融合は期待が大きかったはず。ゲフィンも当然そこを見込んでの人選だったはずですが…何ともうまくいかないものですね。

アルバムは典型的なPWLサウンドを擁したユーロビート・ソング「ラブ・テイクス・オーバー・ユー」「センチメンタル」「ブレイクアウェイ」等を基調に、ドナらしいダイナミズム溢れる「アイ・ドント・ワナ・ゲット・ハート」、大空を舞う鳥のように雄大で軽やかな「ディス・タイム・アイ・ノウ・イッツ・フォー・リアル」、70年代の名曲群を彷彿とさせるスケールの大きな名曲「ラブズ・アバウト・トゥ・チェンジ・マイ・ハート」、日本ではCMソングとしてオンエアされた爽快なダンス・ナンバー「オンリー・ワン」、違う場所と時間の中で出会えたなら…という切ない恋心を歌うアルバム中唯一のスロウ・ナンバー「アナザー・プレイス・アンド・タイム」等のキー曲を要所に配した構成。





ヒットしたシングル3曲の出来が飛びぬけている以外、あまり聴くべき曲がない…とまで言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、やはり単調なリズムの繰り返しがメインとなるユーロビート作品ではなかなかに創造的曲作りを行うのは難しいようで、発売当時それなりにヘビー・ローテーションした割には心に止まる曲が少なく、アルバムを通して聴くとどうにも平凡な印象を受けてしまう作品になってしまったように思います。

ゲフィンが発売を見送ったというのも、正直ちょっとわかるなぁという感じ。

コマーシャルな面では大成功を収めた本作ですから、当然SAWプロデュースによる第二弾のアルバムも企画されたのですが、これはドナの意向によりキャンセルされた模様。次作を、髪を金髪に染めて『ミステイクン・アイデンティティ』=人違い=自分ではないというタイトルにしたのは、このアルバムで商業的な成功を収めたとはいえ納得のいかない作品をリリースしてしまった事への自戒を込めたものだと言われています。
確かに気持ちはわかりますけど、それでも名曲と思える作品が3曲もあるんですから、これは痛し痒しでしたかね。これが最後の大ヒット作になった訳ですし…。

最後になりますが。このインパクトの大きすぎるジャケ。「もうひとつの時間と場所」という事で、京劇風の白塗りメイクにトライしてしまったドナさまなのです。衣装も遠目に見ると唐草模様風に見えちゃいますしね。いったいどの時間と場所に紛れ込んだのやら…もうっ。

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Another Place And Time

1. I Don't Wanna Get Hurt
2. When Love Takes Over You
3. This Time I Know It's For Real
4. The Only One
5. In Another Place And Time
6. Sentimental
7. Whatever Your Heart Desires
8. Breakaway
9. If It Makes You Feel Good
10. Love's About To Change My Heart

チャートデータ
アルバム
Pop 53位/R&B 71位/UK 17位
シングル
「This Time I Know It's For Real」:Pop 7位/UK 3位
「Love's About To Change My Heart」:Pop 85位/UK 20位
「I Don't Wanna Get Hurt」:UK 7位
「When Love Takes Over You」:UK 72位
「Breakaway」:UK 49位



ドナとのセカンド・プロジェクト用に制作された曲の一部はこのロニー・ゴードンのアルバムに収録されたそうです。

posted by Suzu at 22:00| Comment(6) | TrackBack(0) | ドナ・サマー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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